男と女のラブゲーム/2007年10月北朝鮮大使館エリアを歩く


 思いもかけずに北京に一泊することになってしまった。2007年10月26日、私は瀋陽に向かうべく成田空港を後にした。朝の8時から第2ターミナルの「たこ坊」でいか焼き&ビールを味わうという背徳の楽しみのせいか気分は高揚していたが、やがて暗転。エアチャイナ機は北京空港天候不良のため青島空港に到着。そこで3時間半待機のあと5時間半遅れで北京空港に到着したのだった。

 実は大変だったのはそれからで、2時間並んで翌日の飛行機にしてもらったのだが夕方の便。一刻も早く到着したかった私は北京駅に走り、夜行列車や翌日の早い列車を探したが全滅。やむを得ず北京に一泊することにした。

 ところが探すホテル探すホテルみな満室で5軒目の金質商務酒店でやっと空室を見つけた。3軒目の長城飯店(北京シェラトン)ではシェラトン会員証とアメックスを見せて「どーだこれなら大丈夫だろう。」とふんぞり返ったものの、「お客様、本日は満員でございます。」との笑顔の回答を受けコケてしまった。会員だろうがなんだろうが、物理的に部屋がないんだったらそれはしょうがないが、そういう場合はすまなそうな顔をした方が客ウケはいいと思うぞ。

 でもまあせっかくの北京の滞在をムダにすることはない。ってワケで翌日午前から昼にかけて北朝鮮っぽいものを探しに動き回ったのであった。
1.男と女のラブゲーム

 金質商務飯店は北朝鮮大使館の近くにある新しいホテルだ。北レス「銀畔館」が目と鼻の先にあるが資本関係はない。でもなんとなく気にはなっていた。サイトがここに見えるが、一見してフツーに見えるものの、よ〜く見るとロシア語サイトがあることがわかる。私は北朝鮮大使館からほど近いこのホテルに北朝鮮客もいくらかいるだろうと思っていたが、従業員が言うには「ロシア人客は多いが朝鮮客は少ない。」とのこと。

 私はこのエリアを歩くのは今年(2007年)1月以来であるが、以前に比べキリル文字が目に付いて多くなっていた。

  
 コンビニでは外から見えるようにキリル文字が店内から外に向けて発信されていた。中国語で「水果」とあるので果物のことなんだろう。街頭の小さなお店にもキリル文字。お茶って意味なんだろうな。

またこの地域は海棠花3号店も近くにある。朝早い時間帯ではあったが行ってみた。

 
 変化にお気づきだろう。向かって左が今回、2007年11月に撮影したもの。右が開店当時の2005年夏に撮影したものである。そう。海棠花の看板が小さく、小さ〜くなって下の方に下がっているのだ。開店当時はスタバも同じビルにあり、「呉越同舟」と話題にした記事もあったが、そのスタバもすでになくなっていた。

 祖国のスローガンとは違い、看板の占有面積が広くなるほど経費もかかるという資本主義経済では当然のことに気づいたのか、それとも開店当時の広告効果を狙い、とりあえずスタートダッシュで話題づくりのためにデカい看板にし、そのうち小さくするというしたたかな計算があったのか。もしそうなら飲ませた男が悪いのか、飲んだ女が悪いのか、「飲みすぎたのはあなたのせいよ」的な男と女のラブゲームという展開に私も乗せられていたのかもしれない(なんのこっちゃ)。


 
向かって左は大規模カラオケ店であるが、「大宗」の文字が見える。以前「アクビ館でベーをしよう」でご紹介した、「大宗飯店」が経営しているのだと思う。右はマッサージ店だがハングルがヘンだ。東海大学の小倉キゾー先生に「ヘングル」と怒られそうだ。

2.オバさんはフツーに大使館に消える

 以前から不思議に思っていたのだが、北朝鮮大使館にはごくフツーのオバさんが出入りしている。普段着で、バッジをつけいてるわけでもなく、下着はもちろんババシャツよといった風情のオバさんたちである。そういったオバさんがIDを提示するでもなく自宅に出入りする感覚で銃を構えた武装警察の横をスタスタと通り過ぎて行くその光景はなんとも奇妙だ。

 私はそんなオバさんのナゾを解明すべく、たまたま北朝鮮大使館から出てきたババシャツ系オバさんを捕まえてこんな質問をしてみた。

あんでんだ「高麗航空が移転したという話を聞いたのですが、移転先をご存知ではありませんか?」
オバさん「ウリハンゴン(我々の航空の意味)のことかね?移転していないと思ったがねえ。ちょっと待ってな。」

と言うとオバさんは再び大使館の中に消えていき(当然IDの提示もなにもしていない)、親切にも電話をかけて確認したうえで私に「移転してないよ。スイスホテルにあるよ。よかったね移転してなくて。」と笑顔で言ってくれた。親切。このオバさんたちは、北京で雇われた朝鮮族ではないかという疑念を持っていたが、北朝鮮の航空会社のことを「我々の航空」と呼ぶということはやはり北朝鮮から来たのだろう。いや?でも朝鮮族がウリ(我々)の範囲を広く捉えたのかも・・・・なんてことを考えているうちにオバさんはどこかに消えてしまっていた。

3.真新しいぞ防空地下室

 
北朝鮮大使館近くの商店。中国を訪問した北朝鮮の人がここでおみやげを買っていくのだろう。「高級チマチョゴリ」と書かれているが、子供用の小さなチマチョゴリが見える。また向かって右は「防空地下室」の標識。文化大革命当時のものが残って・・・いるわけではなく、真新しいものである。外国の大使館ひしめくこのエリアが空爆されるなどよっぽどのことだと思うが敵国はどこを想定しているのか?

 ところで今回、急に北京宿泊が決定したため以前ここでご紹介した「友誼青年酒店」にも空き部屋を探しに行ってみた。結果は「一部屋空いてますがエラくうるさいですよ。」とのことだった。この界隈は「三里屯」と呼ばれる地域だが、一歩足を踏み入れた瞬間から欧米人がひしめく独特の雰囲気に圧倒されてしまった。ひとりひとりに「欧米か!?」と突っ込みを入れて回るならば、それだけで朝になってしまうだろう(なんのこっちゃ)。

 このスポットは北京有数のおしゃれスポットであるとともに風紀が乱れがちであるとか(ベレンコ同志情報提供ありがとうございました)。夜11時というのに騒然としているこの地域、きっと友誼青年賓館でも夜を徹してバカ騒ぎが行われているのだろうと思った。


 急速にその姿を変える北京だが、北朝鮮大使館エリアもそれは同様。今回はオバさんのナゾの解明には至らなかったが、急激に増えたキリル文字といい、真新しい防空地下室表示といい、このエリアからはこれからも目が離せない。(2007年10月27日訪問)