牡丹江平壌友誼館(朝鮮名:平壌親善館)訪問記 “そ、そんな歌だったのか!?”
1.追いかけて北国
牡丹江は黒竜江省の地方都市。省都のハルピンからは高速バスで4時間である。広い中国、4時間なんて近いもんである。最近は中国の高速バスはボルボや大宇のトイレ付きバスも多く走るようになり、快適である。でも何故かトイレを使ってはいけないことも結構あるので、あまり不用意に安心するのは考えものである。私は以前ハルピン→長春のバスでエラい目にあったことがあるが、まあ詳細は省く。なお、牡丹江という街についてはいずれ「北朝鮮っぽいところ旅行記」としてアップする予定である。ここ、コリアタウンがあるのよ。
2.そのうちなんとかなるだろう
友人の朝鮮族の協力により、「平壌友誼館」という名の北レスがあることだけはつかんでいた私であるが、具体的な情報はゼロ。私はあてもなく街をダラダラとさまよいつつ歩くことになった。しかし段々とハングル表記のお店が目に付くようになり、「金剛山狗肉館」とか「ロッテ百貨店(ホントか?)」といういかにも系の看板が立て続けに登場するようになった。西長安街という通りでのことである。「こりゃひょっとすると?」と思っていたら「平壌友誼館」はあっさり見つかった。
午後2時近くという時間帯のためか、さほど広くない店内に客は2組ほど。応対してくれた接待員に「夜また来る。」旨告げて、名刺をもらって一旦ホテルに戻ることとする。牡丹江市内にはここ以外に北レスはないそうだ。日本人客は珍しいのか、奥で接待員が「日本人?」とささやきあっているのが聞こえてきた。
12月の牡丹江は寒い。雪が舞っているのがわかるでしょ?
3.それでも多い韓国人客
夜7時頃に再訪。私が入った頃には客もさほど多くなかったが、じきに韓国人団体客が入ってきてあっという間に満員になってしまった。よくこんなところまで来るもんだ。お互い様だが(牡丹江の人ゴメン)。韓国人客はおおはしゃぎで「故郷の春」あたりを歌っていたが。もう一組は地元の人に見えたが、携帯電話で日本語で話していた人は何者だったんだろう?
応対してくれた接待員同志は「お客様は昼にお越しになった方ですね?」とにっこり。いきなりカンジがいいではないか。見渡すと北レスとしてはこじんまりとしているこのお店は、接待員同志が3名プラス、40代で店長と思われる女性の4名編成だ。
一番左が主に接待してくれた同志。みな親切で歌がうまい。「パンガプスムニダ」や「口笛」や「アリラン」を歌ってくれた。
料理はこんなカンジ。コ、コチュジャンがぶわ〜っと!!キムチがあっさりめでいかにも北朝鮮風ですね。
左の同志は横向いて何をしているかとゆーと、個室のお客様に歌ってさしあげているのだ。
4.北レス取材のマナーとは?
北レス取材のポイントは何か?それは節度を持つことである。いかに私が北レスおたくであっても、北レス側から見れば一人の客に過ぎない。したがって仕事の邪魔にならぬよう、写真撮影も取材も控え目に、控え目〜にすべきなんである。ではこの画像は何かと問われば・・・・
い、いやまあ・・・これは店長さんに「写真撮っていいですか?」ときいたら、「どうせ撮るなら、真ん中に立っていいよ。」と言われたんで、仕方なく、仕方な〜くそうしたんである。その割には嬉しそうだが。でも表情見えないって?あんな弛緩した表情は見せられません。このサービスはこじんまりした平壌友誼館ならではかもしらん。とてもいい経験。この後、歌も一段落して、お互いの名前を教えあったりして楽しく過ごした。いつもながら北レス接待員同志はみな明るく親切だ。
左から
・私にキビし〜く朝鮮語の発音を指導するキム同志。
・学習終わってツーショット。
・へへ。サインしてもらっちゃった。肉筆とはいえ、なんとなく字体が北朝鮮ですよね。
5.そ、そんな歌だったのか!?
今回もマナーを守った北レス取材は終わった。帰り際に「サヨウナラ」と言ってくれたキム同志よ。また会おう。ところで帰国してからデジカメ画像&映像を整理していたのだが、一つ気になることが。彼女たちが歌ってくれた曲の中で一つだけタイトル不明のものがあったのだ。なんというのかおとなしめの軍歌というか、最前線で歌う歌ではなく一息ついた時に歌うゆっくりした実にイイ感じの曲である。ゆ〜っくりとペンライトなんか振りたくなるカンジだ。
その後の上海遠征の際にこのデジカメを持参し、上海青柳食堂の朴同志に聞いてもらったのだが、朴同志は一瞬だけ遠い目をしたがすぐに「パニルジョンガ」でございます。お客様。・・・・・「パニルジョンガ」ってなんだ・・・・?朴同志はニッコリ笑って立ち去ったが、「パニル」ってのは分解すると「パン・イル」で反日・・・・?は、反日戦歌だったのかっ!!彼女たちはニコニコしながらそんな歌を歌っていたのであった。まあ過去にはいろいろあったワケで、今でもいろいろあるワケで、気持ちはわからんでもないが、少なからぬショックを受けてしまった。
その後の訪朝でCDを探したがアッサリと発見。国民的歌手、リ・ギョンスクのライブ版の11曲目に入っていた。1番の大意は↓
「日帝どものひづめの音が騒がしくなって来た。美しい我が祖国を踏みにじり、殺人放火搾取略奪殺戮の蛮行。数千万の我が人民を蹂躙する。」
2番以降は訳す気力もないが、北レス調査の中でわかった一つの現実ではあった。以前金剛山観光の韓国人客が、当地で開催されたサーカスの入場時に流された「金正日将軍の歌」に大喜びで手拍子していた(歌詞がないので内容が理解できない)マヌケな場面が目撃されているが(このお話は『小牟田哲彦著/南北分断鉄道に乗る−鉄馬は走りたい』の190ページに掲載されています。)、こんな場面で日本人である私が本当にペンライトなんか振ってしまったらマヌケどころの騒ぎではない。
再度動画を見てみたが、アカペラで、ユルささえ感じるそのメロディに乗せて「♪殺〜人放火搾〜取〜略奪・・・♪殺戮の蛮〜行〜♪」と笑顔で歌えるということは、やはり我々とは違うのかもしれないなんてことを感じていた。この「反日戦歌」、北朝鮮ではどういったポジションにあるのだろうか?国民歌手がライブ版に収録するくらいであるから、広く愛されているのだろうたぶん。まあこれは次回訪朝時のテーマってことで・・・
なんだか暗くなってしまった。でもまあ牡丹江平壌友誼館がいい思い出だったことには変わりない。いつかまた行きたい。そういえば牡丹江に出店した理由を店長に聞いたら「8年前に開業したが、もう代替わりしたのでよくわからん。」とのケンチャナヨな回答であった。「友誼館(朝鮮名は親善館)」という他に見られない名前だけに、友好都市提携の記念とか・・・そんなとこかなあ。
(2003年12月29日訪問)