北レス激戦区丹東市をゆく

1.七宝山飯店を発見

 なんとなくカッコいいタイトルにしてみたが、たしかに2003年秋以来の丹東はロキロキした。当時私が確認した北レスは松濤園だけだったが、その後同志たちの報告により、断続的に北レス情報は入ってきていた。

 2005年GW、私は瀋陽市から高速バスに乗って丹東市に到着したのだが、高速バスで僅か3時間半しかかからず、途中休憩もなかった。

 5月3日夕方から5月5日午前まで滞在し、新規北レスを発見するため、雨の中足を棒にして歩いた私だったが、そのかいあってこれまで全く報告のなかった「チンダルレ食堂」、「七宝山飯店」の2軒を発見することができた。

 この時期は中国も労働節で一週間の休みであり、丹東は北朝鮮という外国を気軽に見られる観光地として中国人観光客で賑わっていた。また韓国からの客も多くみられた。その結果北レスはどこも満員で、私のような一人客は実に入りにくかった。

 ここで自作の丹東北レス分布図を公開する。うーオレこういうの苦手なんだよう。すっごく時間かかっちゃった。


 大雑把に言うと、丹東北レスの所在地は「開発区地区」と「駅前地区」に分けられる。「金平壌館」は地図で見るほどには七宝山飯店に近くなく、実際は鴨緑江沿いに位置している。まあどちらにも分けられないようなところにあるのだがそのあたりはケンチャナヨである。そういうわけで北レスは合計8軒確認できた。
  
 新規発見の2軒中、チンダルレ食堂はすでに報告したが、七宝山飯店は実は以前造船同志が発見した「三池淵美術展示館」を探す過程で発見したのである。造船同志のこのレポは2005年4月当時のものだったが、それから一年少々、残念ながらこの展示館は閉店されていた。
  
「老丑魚荘」という名前の、これは海鮮レストランだろうな。「三池淵美術展示館(画像提供:造船同志)」ではどんな革命的な画が売られていたのか大いに気になるが、今となっては確認不能である。で、新規発見の七宝山飯店はこの真向かいにある。
 この日は午前11時くらいの時間帯だったのだがすでに数組お客さんが入っていた。応対してくれたバッジをつけた女性に「三池淵美術展示館」の画像を見せて「これがどこにあるか知りたいんだけど・・・」と言ったところ、「それならこの向かいにあったのですよお客様。」と教えてくれたのですよ。親切だなあ。七宝山飯店は毎晩公演があるので是非おいでくださいとのこと。

2.脱力系ナゾの北朝鮮グッズとは?

 丹東には二泊したが、一泊目は国門飯店にした。鴨緑江に最も近いだけでなく、支払いに国際カード(AMEXやVISAのこと)は使えず、中国の地場カードしか使えないというまことに味のある対応をしてくれるこのホテル。鴨緑江側の部屋を希望したら、現在空いているのは10階の「陽光標準間」だけという。一泊588元・・・。三ツ星にしては高い。でもまあしょうがないのでお願いすることにした。

 9階までエレベーター、その後10階まで階段を昇る必要のある陽光標準間、中はこんなカンジである。
 
 おお。角部屋である。鴨緑江に面して2面がガラス窓ってのはヨくない?この後TVをつけたら「ゴジラ FINAL WARS(ドン・フライとか出てるやつ)」をやっていて、中国語をしゃべるケイン・コスギや船木にロキロキしたり、おおおっ!!この作品、音楽はキース・エマーソンだったのか!!とか喜んでいたら、あっという間に日が沈んで薄暗くなってしまった。

 ただでさえ少ない観光の時間なのに、まったくもって怪獣総進撃レベルバカの私であったが、おかげで新発見をすることができた。丹東といえば橋というくらい有名なこの橋だが、3年前と違って光るのである。奥の橋は赤とか青とか、もっとケバく光るのである。このケバく光る橋を、北朝鮮に向かう列車が闇に飲み込まれるように消えていく様子はなかなかにロキロキさせられる。

 街に出てみた。北朝鮮グッズを売る人たちがたっくさんいる。切手。まあそれは基本だな。あとニセバッジとか。ふふ。そんなものでオレ様のハートをロキッとさせようとはまだまだ素人だな。・・・ん?おおおおっ!!こっ、これはっ!!

朝鮮語を学ぶ私達にとって、ピョンヤンの「ピョ」の発音が息を強く出す「激音」と呼ばれる音であることは基本中の基本。しかしこのグッズ、笛を吹く民族衣装の女性の横に書かれたのは・・・・・「ミョンヤン」である。

 「ミョンヤン」・・・・。ピョンヤンに比べ、なんともヌルい響きである。ミョンヤン・・・。ナゾの言葉だミョンヤン。脱力系だミョンヤン。北朝鮮はここ丹東の街を足がかりに、「北朝鮮ってヌルくない?」的イメージを定着させようというしたたかな戦略を練っているのだ。そのイメージは徐々に浸透し、世界中を親北朝鮮にしてしまったところで、X星人のように空から襲いかかってくるのだろう(ゴジラ FINAL WARS見といてよかった)。そのうちホントに首都をミョンヤンに改名するかもしれない。

 こう言っとけば日本のバラエティ系報道番組が本気で取材に来て、オクターブ低い声で、「これも、北朝鮮の新たな宥和政策なのか・・・」とアナウンスしそうで怖いぞ。 
3.ボーッとしていられる幸せ

 二日目の宿泊は中聯大酒店。四ツ星。丹東のホテルはやはりここが最高級である。サウナも広いし(ちょっとヌルかったが)。この時期、中国もメーデー休暇で観光客が多く、鴨緑江側の部屋は取れなかったが、反対側の部屋からは丹東駅が見えるのでプチ鉄の私は満足である。部屋にはブロバンが引かれていてネットもできるし。丹東駅では平壌に向かう車両のみ残して他の車両を切り離すという作業があるところで、それをホテルの部屋からゆっくり眺めることにした。
2006年5月5日の丹東駅。到着した列車が着々と平壌行きのために身軽になってゆく。
(左)到着後、引っ張ってきた機関車が離れたあと。窓回りがオレンジ色の車両は丹東止まり。
(中)一旦奥の方に引っ込む。
(右)平壌行き車両のみ推進運転で入線。いち、にい・・・全部で5両か。機関車が客車に向かっている。

到着から発車まで2時間かかるのだが、それをボーッと眺めていられるなんて、ぼかぁ幸せだなあ。そして列車が動き出した。私は廊下に出て線路に近い窓に向かい、平壌行き国際列車を間近に眺めることにした
おおおおっ!!こっ、これはラッキー!!青と赤のツートンカラーの車両はモスクワからやって来た、ロシアの車両なのだ。うーん。こうして平壌まであとひと頑張りするわけやねえ・・・鉄橋に飲み込まれていく様を見ながらそんなことを考えた。この世界最長距離を走る列車については小牟田哲彦著「アジアの鉄道の謎と不思議」に詳しい。

このように丹東は鉄道で北朝鮮とつながっているわけで、かつては北朝鮮行きのツアーが頻発していた(但し日本人は参加不可)。そのあたりはどーなってんの?というのも今回の丹東訪問の目的である。

4.現在は渡航できません

 2003年秋の丹東訪問時は、中聯大酒店のロビーにも北朝鮮旅行の案内板があったものだが、2006年5月の今回はどうだろうか。まずバスターミナルの切符売り場で目に付いたのがこの看板である。
 「鴨緑江水上風情一日遊」・・・。ヨい。でもなんだかよくわからん。実はこの看板はバスターミナルのすご近くにある旅行社のもの。早速行ってみた。そこでゲットしたのが下のチラシ。
つまりこれは船に乗って国境のいろんなところを回るというもの。金日成主席が川を渡った地点とか、一歩跨(北朝鮮がチョー近いところ)なんて文字が見える。さらに2枚目は「朝鮮神秘の旅」である。「世界十大公園都市の一つ平壌へ」なんて書いてあるが、平壌って、そうだったのか?中国人ならではのロキロキする訪問先はそれほどないが、「中国人民志願軍烈士塔」が特徴か。あと「主題思想塔」じゃなくて「主体思想塔」だよー。
 これは日本人行けるのかどうかがポイントだが、ダメもとで聞いてみたら「現在はあらゆる北朝鮮ツアーは中止になってます。」とのこと。理由は教えてくれなかったが、何かあったんだろうな。
上は丹東駅併設の「丹鉄大酒店」のパンフからスキャンしたもの。
(左)朝鮮半島の地図が書かれ、「平壌」をはじめとした各都市までの距離がわかる。平壌まで220キロ。
(右)パンフの「赴朝旅遊提要」。朝鮮に行く人はこういったものを用意せよとのこと。ナゼか浙江省と福建省だけ扱いが違うのが面白い。

 結局「中国人の北朝鮮ツアーは中止」という証言を旅行社で得られただけだったが、街にはこういった北朝鮮とのつながりをうかがわせるものが多く見られた。
左は窓ガラスやドアの卸売りだろうが、何故か平壌の千里馬像が看板に見える。北朝鮮との合弁か?中は駅近くの貿易城。たいしたものは売っていないが側面の中朝併記が泣かせる。右は「朝鮮ビジネス視察」程度の意味。2006年9月現在、日本人もビジネス視察目的なら新義州に入れるという情報もあるが未確認。

5.こんなにたくさ行くんかい

 3年前の訪問と一番違ったのは税関ですかね。
  
左の「丹東口岸物流商貿中心」と書かれた建物の裏側が中の税関になっているわけだ。中国から北朝鮮に行く場合はここで審査を受けるわけである。この建物の向かって左側には免税店があり(左画像)、中に入ってみたが高級ウィスキーやタバコといった、フツーの免税店といった品揃えであった。
  
左が中国から北朝鮮へ出国する人の列。中が出国を待つ車。右が出国審査を終えて車を待つ人(多分)。審査済と思われるパスポートの束を持っていた。
こういった書類も気になる方なんでいただいてきた。左は出国者の携帯物申告書でしょうね。国籍が中国か北朝鮮かどちらかにマルするようになっていて、どちらかの国しか想定していないような様式になっていることが面白いです。また右は「4月25日は北朝鮮の建軍記念日だからお休みします」という掲示。もう5月に入っていたのに掲示されていた。

最後に、街にで見かけた「北レスみたいで北レスではないお店」の画像を紹介して終わりにする。でも3年間来なかったってのは長すぎたな。丹東も変化速いわ。少なくとも1年ごとの定点観測が必要と感じた。

6.悪いがキミは論外だ

 冒頭で紹介したように、ここ丹東には8軒の北レスが存在しているが、パッと見ただけでは北レスと区別のつきにくいお店も存在する。
 
左の「千里馬」はいかにも北朝鮮チックな店名ではあるが北レスではない。画像では見えないが、店頭で客引きしている店員の物腰でわかっちゃった。でも一応確認のため話は聞いたけどな。そして右の「玉流館」、ヒジョーに北レスっぽい。同名の有名レストランが平壌にあるし、看板の色も人共旗チックだし。でもここも北レスではない。
 
左の「平壌焼〔火考〕」、窓ガラスにピョンヤンアヒル焼肉と書かれてあって、趣味者を「おおおっ!!」と思わせるのに十分であるが看板の赤地に黄色文字がやや北朝鮮的繊細さを感じさせず、中に入ったところ午後3時という時間帯でニンニク皮むきタイムの女性従業員は全員中国人であった。右の「大長今」、悪いがキミは論外だ。(2006年5月3日、4日滞在)

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