朝鮮女性は手をつなぐ/上海万博朝鮮館の日
 2010年9月6日。上海万博朝鮮館の日である。上海万博ではその日ごとに国歌館の日ってのが決められていて、たまたま9月6日が割り振られたのだ。9月6日には特に意味はない。事前にわかっていたのは3時から3時30分まで「朝鮮平壌芸術団民族歌舞」が亜州(アジア)広場で開催されることと、同公演が同日8時から10時まで世博中心(万博センター)で開催されるということだけである。しかしそれ以外にもアレとかコレとかあるようなないような・・・ちょっとした期待感を抱きつつ上海へ飛んだ。
1.いざ朝鮮館へ。ハレ?・・・・閉まってる。
 この日万博会場に到着したのは午前11時。すでに万博は3回目(日数にして6日目)なので、朝鮮館近辺にはなにやら土地勘らしきものさえ芽生えていた。トルクメニスタン館を横目で見ながら朝鮮館へ。今日は“朝鮮館の日”だ。入場者が少なく待ち時間ゼロの朝鮮館だが、さぞかし盛大に・・・・・ハレ?
閉まってるよなこれ。「我慢強く待て割り込むな。」って書いあるのが中国っぽい。この時11時10分。朝鮮館の前では中国中央電視台の女性アナウンサーがスタンバっていた。

参ったな。いきなりこれかよと思いながら近くの日陰のベンチでコーラを飲みつつ休憩していたら・・・おおおおっ!!
突如として目の前を横切るチマチョゴリ姿の若かったりそうでもなかったりする女性たち。オレンジ色のチマチョゴリの女性に“アンニョンハセヨ”と声をかけると“アンニョンハセヨ”と返してくれたが、朝鮮女性独特の柔らかい笑顔はない。カルガモの親を追いかける子ガモのように後を追うオレ。やがて朝鮮館に到着。ここには日本のメディアも待ち構えていた。中国語で誰かが「すぐ開けるのか?」と聞いたら「午後1時です。」とオレンジ色のチマチョゴリの女性が中国語で答えていた。この時11時20分。

あとでわかったのだがこの時は午前の公式行事が終わり、祖国の訪問団に見せるために朝鮮館を開けにきたのだと思う。オレンジ色のチマチョゴリの女性もいまだ緊張から解放されていないため笑顔がなかったのだと思った。


2.進化するおみやげ群。表情まだ固いぞ

一旦朝鮮館を離れたオレ。船で対岸の浦西会場へ渡り、中国鉄路館へ。これがあまりにも面白かったので、午後1時の開館の瞬間を見ようと思っていたのに大幅に遅れ、朝鮮館に戻ったのは午後2時半だった。朝鮮館の日でありながら行列はなく、相変わらず観客に優しいパビリオンだ。
おお。さっきの女性だ。いまだ表情が固い。まだ公式行事残ってるしな。いやひょっとしていつもこうなのか?ケースの中のおみやげ群。国旗を売っているのは以前と同じだがペナントなんか新しいな。
   
キーホルダー。ひとつ10元。上が“白頭山”。下段左から右へ“金日成花”“ハナ(ひとつ)”“正日峰”“金正日花” 。裏面は国旗のデザインになっている。ペナントは25元。これ全部買った。合計125元。隣の中国人のオヤジが呆れた目でオレを見ていた。

朝鮮館は5月と6月にも来ているが、この日は比較的客は多いほうだった。しかし、予約が必要な中国館よりも、朝鮮館の方が一日あたりの入場者数が多いとは知らなかった。この朝鮮新報の記事の自画自賛ぶりはスゴい。特に40代の浙江省から来たという女性の発言は笑える。「日本館などは長時間並ぶ必要があるが朝鮮館はスムーズに入館できるような心遣い・・・」ってそれ客が少ないってことの証明じゃないのか!?おっと公演の3時が迫っている。急いで亜州広場へ向かうことにした。



3.朝鮮平壌芸術団公演を見る。おい日傘下げろ

 会場に着いて2時40分。客席はすでに6割方埋まっていたが、公演が始まる3時にはほぼ満席になり、立っている客も多く見られた。ところで中国人は座っている人の前に立てば後ろの客が見えないだろうとか、日傘を差したままだと邪魔になるのではとかいう考えは全くないらしく、公演を目前に控えて座れどけの怒号が飛び交い、頭にきて日傘を叩いて回るオヤジがいるなど、プチ修羅場と化してしまった。しかしそんなこととは関係なく公演は始まった。
   
1曲目。扇子踊り。日本のメディアで取り上げられたのはこれ。華やかでヨいカンジである。  2曲目。実は私は正面に陣取っていたのだが、上に書いたような理由で全く見えず、ステージ横に移動したのである。 
   
それでみんな横からの画像なのだ。3曲目。男女が民族衣装で出てくる。  4曲目と5曲目。男性独唱。「社会主義のわが国がヨい」ってな歌を歌っていた。 
   
6曲目。女性6名によるタイコ踊り。   7曲目と8曲目。女性独唱。
   
9曲目と10曲目。男性2名と女性3名による合唱。  フィナーレ。全員による“金正日将軍の唄”。 

素晴らしい公演であった。特に最後の“金正日将軍の唄”は全員の気合が伝わってくるようであった。公演は予定の3時半を10分オーバーし、3時40分に終わった。最前列で朝鮮国旗を振っている人が数名いたが、在日だったのだろうか?



4.朝鮮女性は手をつなぐ

 この日、夜8時から10時まで同じ芸術団の公演が世博中心であることはわかっていたのだが、前夜(9月5日夜)公式サイトにこんな告知を発見した。「2010年9月6日為上海世博会朝鮮国家館日、当晩20時在世博中心大会堂(紅庁)挙行的“朝鮮平壌芸術団民族歌舞”演出系参展方包場、
演出対外不開放、敬請各位遊客諒解」・・・つまり夜8時からの公演は一般客は見られないというのだ。しかし、ワケのわからんことがよく起こる、それが中国だ。諦めず公演会場に行ってみようと思った。しかしその前にもう一度朝鮮館へ行ってみるとするか・・・。

 ハレ?またまた閉まっている。この時午後4時50分。中国人スタッフが「今日はもう閉めました。明日開けます。」なんてことを言っている。ってことはこの日は午後1時に開けて4時半頃には閉めていたのだと思う。ってことは多めに見て3時間少々しか開けていなかったのではないか?日本ではこの日を“北朝鮮ナショナルデー”等と訳していたが、正しくは“国家館日(英語ではNational Pavilion Day)”なので“朝鮮館の日”と訳すべきだと思う。

 その“朝鮮館の日”にだな。えーんかキミたちはそんなことで?いや忙しいのはわかるよ。祖国から要人が来ていたんだろ?公式サイトでもこのように報じられている。この日は午前世博中心で公式行事があって、夜には招待客用の朝鮮平壌芸術団公演があったのだと思う。それに狩り出されていたんだろうたぶん。しかしだ、日本館が韓国館が、自らの国家館の日にパビリオン閉めるなんて想像できるか?(いや、できない)。このあたりのダラダラしたカンジがキミたちなんだなあ・・・と思わず上から目線で説教したくもなるってもんだ。

 まあしょうがないんで朝鮮館は諦めて、夜の公演になんとか入れてもらえるよう会場の世博中心に行ってみることにした。韓国館の前を通り文化中心の前を通り・・・・
   
世博中心正面。おお。国旗が。朝鮮館の日だからな。  ん?・・・・あのポニーテールの女性6人組は? 

 アジア中の混沌を集めたような万博会場の中で、誰に言われるでもなく2列縦隊。全員ポニーテール。しかも手をつないでいる。こりゃ朝鮮女性だとピンと来た。世博中心に向かっている。オレの行く先も同じ。偶然。念のため言っておくが偶然である。傍からは尾行しているように見えたかもしれないが、たまたま同じ方向に向かっているだけである。でもなんとなくビミョーな距離を保ってしまうのはアレか?妙な下心をナニゲに自覚しているからか?

 北朝鮮女性が北レスへの出退勤時、列を作って歩いている姿はこれまでも目撃されている。そこまでキッチリしなくても・・・と少々気持ち悪さを感じていたのだが、実は手をつなぎやすいからってのが列を作る理由なんじゃないか?

 帰国してからTBSのサイトで、同じ女性が取材されている場面を見た。この中で“公演を終えた朝鮮平壌芸術団の女性”と紹介されていた。オレもそう思っていた。つまり昼の公演を終えた芸術団の女性が万博会場を回り、夜の公演のために戻っていったということである。しかし、彼女達は世博中心の入り口で「招待状(実際は中国語)」と書かれた赤い書類を守衛に見せており、守衛に「後ろから入るように。」と言われていた。

 つまり彼女達は同胞の公演を見にきた上海在住の朝鮮女性。北レスの同志たちではないだろうか?ただし知った顔はいなかった。最近行った七宝山、高麗館、平壌館、妙香館ではないということである。6名で全員だとすれば比較的小規模北レスである。どこだろう。パークソン百貨店の青柳飯店か?


 私も守衛さんに「夜の公演見られませんか?」と聞いてみたが全く相手にしてもらえなかった。この時5時半。公演が始まる8時までには時間がある。北レスの彼女達がこの時間に来たということは、公演に先立ち関係者と来賓を招いての宴会があったのではないかと推測する。あの固い表情の女性も固い表情のままで参加しているのだろうか?(2010年9月6日訪問)