北京月香訪問記

 2003年8月31日、私は北朝鮮大使館領事部近くにある北レス「月香」に向かった。北京は中国の首都であるにも関わらず、牡丹江と並んで私の北レス研究の空白地帯となっている。SARSも終息し、ちょっと遅めの夏休みを取って向かった北京で、4軒あると言われている北レスを完全制覇すべく気合が入りまくったのであった。

 宿泊先のホテルは市街地の西側にあり、反対側にある北朝鮮大使館までは1時間程度かかるのだが、地下鉄とバスを乗り継いで北朝鮮大使館領事部を目指した。ここは何度か訪ねた経験があり、最も近いところでは昨年2月、金正日将軍のお誕生日室内マスゲームの時にビザ取得で訪ねたことがある。

 地下鉄朝陽門駅からバスに乗り換え、神路街で降り、あとは芳草地西街をひたすら歩くだけ。ここは道幅があまり広くなく、緑が多くていい通りだ。こんなカンジ(下左画像)。

やがて左手に「月香」は姿を現した。北レスとしては小ぶりな方だろうか。お昼前に行ったのだが全く人の気配がなく、よ〜く見ると「本日はお休みです」と書かれた手書きの紙が貼ってあった。

芳草西街

月香

北レス従業員の手書きの漢字を目にすることは(自身の名前を除くと)あんましないのだが、いかにも知らないながらに一生懸命書きましたってカンジが伝わってきてカワイイよな。

月香の看板。なかなかイキですな。右下に見えるのは中国企業の名前ようなので中国の独資なのか?なんてことをこの時は考えていた。

お休みなものは仕方がないのでしばし看板を観察したのだが、両サイドというのか両エンドには中朝両方の言語で店名が書かれていて、芸が細かいじゃないか。

ところでこの画像、お店の看板の右側がモザイクになっているが、これは予約用電話番号なのだ。店構えに比してデカ過ぎるような気もするが。

 それでまあどうしようかと思ったんだが、ここはやたらハングル文字のお店が多く、「万景峰百貨商店」、「開城眼鏡店」、「金剛山」とかいうお店(実際はハングル表記)が並んでいる。やがて頼みもしないのにバッジをつけた人が歩いてくるのを発見した。しかもひっきりなしにである。中にはバッジをつけた若い女性ばっかり7人も引き連れた男性もおり、あれは一体何者なのか?(ただし女性は美人ではなかった)と思ったりもした。

 で、このまま帰るのもアレなので万景峰百貨商店に入ってみたが、ちょうど同じタイミングで茶色のジャンパーに日焼けした顔、いかにも北朝鮮人民ってカンジのオヤジが入って来て、店内を物色し始めた。メガネをかけた晩年の主席の顔がデザインされたバッジである(現在平壌駅に掲げられている顔と同じ。今回北京ではよく見た)。

 まあせっかくなんで見るともなしに聞くともなしにオヤジの行動を観察してしまったのだが(ゴメンよオヤジ)、買い物をするのにメモを見ている。特に熱心に見ているのが靴。きっと家族に「こんなものを買って来てねお父さん。」なんてことを言われて来たのだろう。そして店員に熱心に品質を尋ねているのが女性用ストッキング(朝鮮語でキンヤンマル=長い靴下)。そうこうしているうちに店員の注意がこっちに向いてきたのでいずらくなって店を出たのだが、単位時間あたり北朝鮮人民目撃率はヒジョーに高いっ!!オレなんか10分で15人目撃したぞ!!ス、スマン興奮してしまった。

 ただし商店では北朝鮮産品は販売されていない。多分北朝鮮から中国に来た人のための中国製品のお店なのでは?メガネ屋さんが多い気がした。

例えばこんなカンジのお店。ただしこれはかなり店構えとしてはかなりショボい。

まあ今日のところは月香は諦めて、せっかく北朝鮮大使館領事部の写真でも撮ろうと思ったのに警備の武装警察だか兵隊だかがいて、その視線がイタかった。これは一言断るべきかと思って「朝鮮語話せる?」と中国語で聞いたら「できない。」と言うので「領事部と書かれたプレートの写真撮っていい?」とヘタな中国語で聞いたら怪訝そうな顔をするので「この写真を撮りたくてわざわざ日本から来たのでどうかひとつ・・・」と言ってもダメだったな。カタいヤツだ。

止むを得ないので北朝鮮大使館のそばにあるという平壌館を探すってことに方向転換したのだが、その辺の通行人に聞いても「知らない。」というので困ってしまった。

 ところがふいに通りかかったオバさんに聞いたらちょっとだけ考え込んで「ちょっと待ってて。」と言うと、な、なんと北朝鮮大使館領事部の中に消えて行ってしまった。さっきの門兵顔パス。い、一体何者・・・と思うこと30秒程度。さっきのオバさんは再び現れて私に「平壌館」と書かれた名刺を2枚渡し、「裏に地図があるから探すといいよ。」と言い残すとその辺の商店に消えて行ってしまった。バッジはつけてなかったがあの突如登場したナゾのおばさんは一体、何者だったんだろう。(2003年8月31日訪問)

翌日再訪

 月香を翌日再訪した。12時半というお昼時である。入り口のあたりに上が黄色、下が赤の民族服を来た女性が一人、それからバッジをつけた中年女性が一人。店内はとても狭く、4人かけテーブルが三つ(四つだったかも)。すでに満員。外にもテーブル、白いプラスチック製の椅子とパラソルが3セット並べられており、ここも満員だった。

 粘れば入れたのかも知れないが、少々一人では入りにくい雰囲気だったので接待員に「夜は何時から食事できるのか?」と問うと「5時半でございます。」との答え。昼食は諦めてしばし観察。見たところバッジをつけた人が6割くらい。お店の前には赤い字で「使」と書かれたナンバープレートの車が止まっている。大使館の車だろう。さっき入り口に立っていた女性の他にもう一人民族服の女性がおり、料理を外の客に運んでいた。

 結局今回はほとんど何もできず、名刺もゲットできなかったが、月香は明るく楽しい北レスというカンジではなかった。北朝鮮大使館のすぐ近くにあるということもあり、関係者が食事をしに来るといういわば民族社員食堂のようなものではないだろうか。あの狭さでは歌は歌えても踊りはチと無理ではないか。チマのすそがテーブルにかかってしまってキムチの汁で真っ赤になってしまうだろう。

 お店の看板の横にデカく掲げてある「予約電話番号」だが、在北京日系企業の忘年会だったら軽〜く埋まってしまう程度の広さなので、是非どこかの企業に実践していただきたいものである。もう実績があったりして!?(2003年9月1日訪問)


北京在住日本人の月香レポート

以前北京に住んでいた“さんぷう同志”からレポートが届きましたので掲載します。ありがとう!!さんぷう同志!!

 ワタシが住んでいたのは朝外でした。建国門外へ歩いて通勤していたので、当然月香あたりも良く通るのですが、月香はいつも人気が無くなんだか不気味で、狗肉好きのワタシも足が向きませんでした。

 2002年春〜夏、大使館への駆け込み事件が頻発しだしたころ、大使館街を歩くだけでも身分証を出させられるわ日本大使館に入るのにもチェックが厳しいわで、日壇公園周辺はものものしい雰囲気になったものです。その中にあって朝鮮大使館の門が夜中の2時頃に全開になっていたのが逆に異彩を放っていたわけです。そりゃ朝鮮大使館に駆け込む人はいないっすけどね。夏には、朝鮮大使館裏の胡同(細い裏通りのこと)では、人民は道路に布団を引いて寝るのでした。

 う〜ん、なるほろ。私は月香はチラッと覗いただけなんで雰囲気とはいってもつかみ程度しか理解していないとは思うのですが、謎の大使館全開状態とも相俟って独特の雰囲気ですなあ。益々興味が湧いてきました。次回は是非夜に行って歌と踊りの有無も確認したいです。

ぽちょんぼ特派員同志の月香体験記はこちら

月香潜入失敗役立たずヘタレ日記はこちら